オルガン音響モデル
フルー管(唇管)は、口から吹き出す空気の薄い流れ(ジェット)が管の中の音で揺れ、唇の内と外へ振り分けられて音を保つ自励振動として、リード管(舌管)は、真鍮の舌がシャロットに当たって風を断続させる自励振動として計算します。管の長さと太さ、口の寸法、風圧から、管ごとの音が決まります。ストップを選んで鍵を押すと、その管が鳴ります。教会の残響を付けて、曲の演奏もできます。
管と鍵盤
ストップ
鳴っている図に表示第 2 手鍵盤
第 2 手鍵盤の箱の扉の開き。閉じると音が小さく、高い音ほど弱まる
第 1 手鍵盤
ペダル
カプラー
管の中の音圧の分布を描く幅の倍率
振動を何分の 1 の速さで描くか
著作権の切れた曲の電子楽譜から変換したもの。演奏を始めると、曲ごとのストップ(レジストレーション)に切り替える(途中から弾くときは、その位置のもの)
曲の標準の速さに対する割合。演奏中も変えられる
スピーカーへ出す大きさ(0 dB で、1 m 先の音圧 1 Pa をフルスケールにする)
第 1 手鍵盤の風箱の圧力。第 2 手鍵盤はその 0.9 倍、ペダルは 1.15 倍。高いほどジェットが速く、音が大きく明るくなり、強すぎると上のモードへ跳ぶ(倍音で鳴る)
風箱の圧力を周期的に揺らして、音に揺れを付ける装置
多くの管が鳴ると、送風が追いつかずに風箱の圧力が少し下がる。安定なら下がらない
平均律と、バロック時代の不等分の調律。管の長さを変えて合わせる
A4 の周波数
管の内径を、Töpfer の標準スケール(8 フィートの C で 155.5 mm、16 半音で半分)から何半音ぶん太くするか。太いほど高い倍音が弱く、柔らかい音になる
口の高さ(ジェットが渡る距離)÷ 口の幅。高いほどジェットの走る時間が長くなり、音が柔らかく遅く立ち上がる。低いと明るく速く、強すぎると上のモードへ跳ぶ
- 口の幅 ÷ 円周 α
- ジェットの厚さ ÷ 口の幅 γ
- 足の圧力 ÷ 風圧
- 鍵の範囲
響きを付ける部屋。寸法と吸音率から残響時間を求める(再生の音だけに付け、音の波形と計算結果には含めない)
楽器から聴く人までの距離。遠いほど、直接届く音に対して部屋の響きが大きくなる(直接音の大きさは 1 m 先にそろえる)
- 残響時間 T60(500 Hz)
- 残響時間 T60(4 kHz)
- 臨界距離 rc
- 残響音 ÷ 直接音
音の波形
弁を開いてからの時間
スペクトラムの右端の周波数
計算結果
最後に弾いた管
動作原理と式
音の流れ
オルガンの管には、ジェットで鳴らすフルー管と、舌で鳴らすリード管があります。どちらも、風箱の空気で管の中の音を鳴らします。
- 風箱足へ空気を送る
- 発音ジェットか舌
- 管進行波が反射を繰り返す
- 放射1 m 先の音圧
- 残響再生の音だけ
フルー管
フルー管(唇管)では、風箱から足を通った空気が、フルー(細い隙間)から薄いジェットになって吹き出します。ジェットは口を渡って、唇(上の縁)に当たります。
- ジェットの厚さ
- ジェットの速さ
- 管の中の音の速さ
- ジェットが唇まで運ばれる走行時間
ジェット駆動の模型
ジェットは口を渡る間に、管の中の音の速さ で横に揺らされます。その揺れは指数的に育ちながら、ジェットの速さの約 0.4 倍で唇まで運ばれます。唇に着いたジェットが管の内と外へ振り分けられ、その流量の変化が管を押す圧力の源になります[1][2][3][4]。
- 揺らされる口で、管の中の音の速さで
- 運ばれる指数的に育ちながら唇へ
- 振り分けられる唇で、管の内と外へ
- 管を押す流量の変化が圧力の源
飽和と立ち上がり
ジェットの揺れは、ジェットの厚さほどに振れると渦に崩れて飽和します。そのため、増幅には上限を設けます。
弁を開いた直後の振れが小さいうちは、鳴らす音(第 1 モード)の周波数の成分を上限より大きく増幅します。その分だけ速く立ち上がります。この増幅は、実測の管の立ち上がりに合わせています[5]。
唇での損失
唇では、口を出入りする流れが渦をつくって音のエネルギーを失います[6]。
管
管の中の音は、口と開いた端で反射を繰り返す進行波(デジタル導波管)で計算します。次の損失と補正を入れます。
閉管(ゲダクト)は、閉じた端で圧力が同じ向きに返ります。そのため、奇数次の倍音が中心になります。
管の寸法と整音
管と口の寸法は、次のように決めます[10]。口の寸法の比は、Fletcher のスケーリングの比です。
- 管の太さ: Töpfer の標準スケールに、ストップごとの偏差を足す。標準スケールは 8' の C で内径 155.5 mm、16 半音ごとに半分
- 口の幅 : 円周の 1/4。フルートは 0.2
- カットアップ : 口の高さ。口の幅の 1/4。フルートは 0.4
- ジェットの厚さ : 口の幅の 0.02
ジェットの無次元の速さ が大きすぎると、上のモードへ跳んで倍音で鳴ります。そこで、足の圧力を下げて を 10 以下にします。実際のオルガンが、足の穴を絞って整音するのと同じです。
管は短く鳴らして周波数を測り[11]、管の長さを直して調律します。オルガン職人が管の長さで合わせるのと同じです。
ストップ
ストップは、2 段の手鍵盤とペダルに 28 あります。ドイツのバロックのプリンシパルの合唱に、フランスのロマン派の色を足した折衷型です。足した色は、弦、ハーモニック・フルート、オーボエ、箱に入った第 2 手鍵盤です。
並びと名前は、Mühleisen が建てた次の 2 つのオルガンの仕様を参考にしました[12]。
| オルガン | 年 | 鍵盤 | ストップ |
|---|---|---|---|
| テュービンゲン | 2004 | 2 段とペダル | 25 |
| モンタバウアー | 2014 | 3 段とペダル | 40 |
ストップの作り方
- 弦(サリツィオナール): 細い管と、Fletcher の弦の口の比で作る
- ヴォア・セレスト: 同じ管を少し高く調律し、いっしょに鳴らすとうなりが出るようにする。高くする量は、低音で 19 セント、高音で 4 セント
- ハーモニック・フルート: c' から b'' を倍の長さの開管にし、ジェットの走行時間を鳴らす高さに合わせて第 2 モードで鳴らす。実際の管は中ほどの小さな穴で第 1 モードを抑えるが、模型には穴がない
- コルネット: c' から上の 5 列。8' だけ閉管
実際のガンバの鋭い音や、煙突の付いたロールフレーテ、円錐のシュピッツフレーテ、ベルの付いたオーボエの共鳴管は、この模型では作れません。作れるストップに替えるか、寸法だけを近づけています。
カプラー
カプラーは、別の鍵盤のストップを同じ高さで鳴らします。
- II/I: 第 2 手鍵盤のストップを、第 1 手鍵盤の鍵で鳴らす
- I/P・II/P: 手鍵盤のストップを、ペダルの鍵で鳴らす
スウェル
第 2 手鍵盤は箱に入っています。スウェルで扉を閉じると、扉を通る音が減り、閉じた箱を通る音が残ります[13]。閉じた箱を通る音は 160 Hz の 1 次の低域通過なので、低い音より高い音が大きく弱まります。
リード管
リード管(舌管)では、風が長靴(ブーツ)の中から、真鍮の舌とシャロット(溝のある管)の隙間を通って共鳴管へ流れます[14][15]。
- 舌: 1 自由度の振動子。隙間を挟んだ圧力の差で閉じる向きに押され、閉じきるとシャロットに当たって止まる
- 流れ: ベルヌーイの式で決まる。共鳴管の入口の圧力と同時に解く
| ストップ | 共鳴管 | 倍音 |
|---|---|---|
| トランペット | 円錐[16] | 全部の倍音 |
| クルムホルン | 円筒 | 奇数次の倍音 |
鳴る高さは主に舌の長さで決まりますが、共鳴管にも引かれます。そのため調律では舌の固有振動数を直し、それで届かないときは共鳴管の長さも直します[9]。
風箱
風箱の圧力は、鳴っている管が使う空気の量で少し下がります。送風の遅れは、1 次遅れで表します。トレモラントを入れると、圧力が周期的に揺れます。
放射と残響
音は、口と開いた端から出る空気の量の変化から求めた 1 m 先の音圧です。1 Pa を出力のフルスケールとします。
部屋の残響は、部屋の容積・表面積・吸音率から残響時間を Eyring の式で求め[17]、16 本の遅延線のフィードバック遅延網で作ります[18]。全体の大きさは、直接音と残響音のエネルギーの和が 1 m 先の直接音と同じになるようにそろえます。
出力
計算結果と音の波形は、ステレオにする前の 1 m 先の音圧で、残響を含みません。スピーカーから出す音だけに、次の処理をします。
- ステレオ: 管ごとに左右へ散らす。鍵盤ごとの並びと、C 側・C♯ 側の振り分けの目安で、模型には基づかない
- 残響: 再生の音だけに付ける
- リミッタ: 音量の後ろに入れる。フルスケールを超えそうなときだけ働く
出典
- ジェット駆動の模型の式のまとめS. Terrien, C. Vergez, P. de la Cuadra and B. Fabre, “Is the jet-drive flute model able to produce modulated sounds like Flautas de Chinos?,” Stockholm Music Acoustics Conference 2013
- ジェット駆動の模型M.-P. Verge, A. Hirschberg and R. Caussé, “Sound production in recorderlike instruments. II. A simulation model,” J. Acoust. Soc. Am., vol. 101, no. 5, pp. 2925–2939, 1997
- ジェット駆動の模型M.-P. Verge, B. Fabre, A. Hirschberg and A. P. J. Wijnands, “Sound production in recorderlike instruments. I,” 同誌 pp. 2914–2924
- ジェット駆動の模型J. W. Coltman, “Jet drive mechanisms in edge tones and organ pipes,” J. Acoust. Soc. Am., vol. 60, no. 3, pp. 725–733, 1976
- 立ち上がりの長さM. Castellengo, “Flute-like instrument transients: An analytical study of mouth-tone production versus pressure rise time,” ISMA 2004, Nara
- 唇での渦の損失B. Fabre, A. Hirschberg and A. P. J. Wijnands, “Vortex shedding in steady oscillation of a flue organ pipe,” Acta Acustica united with Acustica, vol. 82, no. 6, pp. 863–877, 1996
- 管壁の損失D. H. Keefe, “Acoustical wave propagation in cylindrical ducts,” J. Acoust. Soc. Am., vol. 75, no. 1, pp. 58–62, 1984
- 開口端の反射と端補正H. Levine and J. Schwinger, “On the radiation of sound from an unflanged circular pipe,” Phys. Rev., vol. 73, no. 4, pp. 383–406, 1948
- 口の端補正、リード管の同調N. H. Fletcher, “Organ pipes – A physicist's view,” ISO Journal, no. 3, pp. 34–51, 1998
- スケールと口の寸法N. H. Fletcher, “Scaling rules for organ flue pipe ranks,” Acustica, vol. 37, no. 3, pp. 131–138, 1977
- 調律で周波数を測る方法A. de Cheveigné and H. Kawahara, “YIN, a fundamental frequency estimator for speech and music,” J. Acoust. Soc. Am., vol. 111, no. 4, pp. 1917–1930, 2002
- ストップの構成Werkstätte für Orgelbau Mühleisen, Tübingen, Neuapostolische Kirche(2004)・Montabaur, St. Peter in Ketten(2014)のオルガンの仕様、orgelbau-muehleisen.de
- スウェルの箱の周波数の特性C. Pykett, “Swell boxes: their effect on pipe sounds,” colinpykett.org.uk
- リードと共鳴管J. Miklós, J. Angster, S. Pitsch and T. D. Rossing, “Reed vibration in lingual organ pipes without the resonators,” J. Acoust. Soc. Am., vol. 113, no. 2, pp. 1081–1091, 2003
- リードと共鳴管同 “Interaction of reed and resonator by sound generation in a reed organ pipe,” 同誌 vol. 119, no. 5, pp. 3121–3129, 2006
- 円錐の導波管V. Välimäki and M. Karjalainen, “Digital waveguide modeling of wind instrument bores constructed of truncated cones,” ICMC 1994, pp. 423–430
- 残響時間C. F. Eyring, “Reverberation time in ‘dead’ rooms,” J. Acoust. Soc. Am., vol. 1, no. 2A, pp. 217–241, 1930
- 残響J.-M. Jot and A. Chaigne, AES 90th Convention, Preprint 3030, 1991
このツールで決めたこと
次の値は、このツールで選んだ概数です。
- リードの舌の値
- ジェットの増幅の上限と立ち上がりの倍率
- 乱流の雑音
- 風の揺れ
- トレモラント
- 新しいストップの管の太さ
- オーボエの共鳴管
- スウェルの扉の開きと音の関係
- 部屋の寸法と吸音率
楽譜の出典
トッカータとフーガ ニ短調 BWV 565 J. S. バッハの作とされる
楽譜ではなく、人の演奏を記録した MIDI を使っています。OpenGameArt の「NES - Bach - BWV 565」(投稿 TheOuterLinux、2019)の zip に入っている MIDI で、CC0(パブリックドメインへの献呈)として公開されています。
帰属の表示は要りませんが、変換と編集への謝意として投稿者の名前を書いています。同じデータは 2018 年から作成者の名前なしで出回っており、元の演奏・作成者は分かっていません。
変換した音符のデータ(src/tools/organ/scores の bwv565)も CC0 で公開します。
- 標準のテンポ: ♩ = 50(演奏のテンポの変化に従う。♩ = 18〜115)
- ストップ: Bourdon 16'・Prinzipal 8'・Oktave 4'・Quinte 2 2/3'・Superoktave 2'・Mixtur III・Principalbass 16'・Subbass 16'・Oktavbass 8'・Choralbass 4'・Posaune 16'・Geigenprincipal 8'・Gedackt 8'・Flöte 4'・Nasat 2 2/3'・Flageolett 2'
MIDI は、次のように使っています。
- 演奏の表情: 演奏のテンポの変化とアルペジオ、モルデントやトリル、音の長さと時刻を、そのまま使う
- 鍵盤: Great・Swell・Pedal のトラックを、第 1 手鍵盤・第 2 手鍵盤・ペダルで弾く
- レジストレーション: MIDI の Main Piston(ジェネラル・ピストン)の切り替え 10 回を、このオルガンのストップのレジストレーションの切り替えに当てて、演奏中に切り替える。番号に当てたストップは、区間の音楽からこのツールで選んだもの
- 除いた音: Mutopia の楽譜と照らして、明らかな弾き損じ 1 音だけを除いた。MIDI の 48 秒付近の二重の打鍵
コラール前奏曲「目覚めよと呼ぶ声あり」BWV 645 J. S. バッハ「シューブラー・コラール集」より
音符は、Mutopia Project の楽譜の MIDI から変換し、反復を展開しました。
- 入力: Bart Golsteijn
- 底本: Bach-Gesellschaft, Leipzig
- 楽譜の番号: Mutopia-2006/06/29-601
- 標準のテンポ: ♩ = 66
- ストップ: Gedackt 8'・Flöte 4'・Trompete 8'・Subbass 16'・Oktavbass 8'
原作のライセンスは クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承 2.5(CC BY-SA 2.5)で、元の MIDI と、そこから作った音符のデータ(src/tools/organ/scores の bwv645)も同じライセンスで公開します。
MIDI に入っていない装飾(トリル・モルデント)は、Mutopia の .ly の原本で位置と種類を調べ、バロックの奏法に従って音符にしています。
- トリル: 上の補助音から主音と交互に 1 秒に 8〜12 音で弾いて主音で終える
- モルデント: 主音・下の補助音・主音
右手(ritornello)は第 2 手鍵盤、左手(コラールの旋律)は第 1 手鍵盤で弾きます。
パッサカリアとフーガ ハ短調 BWV 582 J. S. バッハ
音符は、Mutopia Project の楽譜の MIDI から変換しました。
- 入力: Urs Metzger
- 底本: C. F. Peters, Leipzig (8656)
- 楽譜の番号: Mutopia-2006/04/21-741
- ライセンス: パブリックドメイン
- 標準のテンポ: ♩ = 66(終わりは MIDI のテンポの変化に従う)
- ストップ: Bourdon 16'・Prinzipal 8'・Oktave 4'・Quinte 2 2/3'・Superoktave 2'・Mixtur III・Principalbass 16'・Subbass 16'・Oktavbass 8'・Choralbass 4'・Posaune 16'
MIDI に含まれていた、ストップの代わりに 1 オクターブ上下へ写した声部(4'・16' の複製)は除いています。テンポの変化は MIDI の値を使っています。
MIDI に入っていない装飾(トリル・モルデント)は、Mutopia の .ly の原本で位置と種類を調べ、バロックの奏法に従って音符にしています。
- トリル: 上の補助音から主音と交互に 1 秒に 8〜12 音で弾いて主音で終える
- モルデント: 主音・下の補助音・主音
フーガ ト短調 BWV 578(小フーガ) J. S. バッハ
音符は、IMSLP の MIDIから変換しました。
- 作成: Pierre Gouin、Les Éditions Outremontaises、2017
- 標準のテンポ: ♩ = 88(終わりは MIDI のテンポの変化に従う)
- ストップ: Prinzipal 8'・Oktave 4'・Superoktave 2'・Mixtur III・Subbass 16'・Oktavbass 8'
原作のライセンスは クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承 4.0 国際(CC BY-SA 4.0)で、元の MIDI と、そこから作った音符のデータ(src/tools/organ/scores の bwv578)も同じライセンスで公開します。
MIDI でペダルに重ねてあった 1 オクターブ下の音(16' の代わり)は除き、テンポの変化と、音の長さや時刻の細かなずれ(演奏の表情)は MIDI のものを使っています。トリルなどの装飾は、MIDI に演奏として入っています。両手とも第 1 手鍵盤で弾きます。